広島高等裁判所松江支部 昭和28年(う)107号 判決 1953年11月02日
控訴人 被告人 杉谷貫一
弁護人 和田珍頼
検察官 片岡力夫
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訟訴費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴趣意は別紙弁護人和田珍頼名義のもの及び被告人名義のもの記載のとおりであるからその主張するところに対し当裁判所は次のとおり判断する。
税理士法第二条第一号によれば、申告、申請、再調査若しくは審査の請求又は異議の申立、過誤納税金の還付の請求その他の事項(訴訟を除く)につき代理することとなつており、右に「その他の事項(訴訟を除く)」と規定しておる趣旨及び税理士法立法の趣旨等より考えれば同号は必ずしも所論のように申告、申請、再調査若しくは審査の請求又は異議の申立等税法所定の事項に限定した意味に解すべきではなくその他一般に徴税官公署を相手方とする分納、納付の猶予等の陳情、交渉の類をも包含するものと解するを相当とし而して同条第三号によればこれらの事項について相談に応ずることをも税理士業務の一としておるから被告人においてなした原判示(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)の所為が同条第三号に該当することは明瞭である。更に同条本文の「業とする」とは反覆継続の意思を以て所定の事項をなさば足り必ずしも営利の目的に出たものであることを要しないものと解するを相当とするから被告人において本件所為をなすに際りたとい営利の目的がなかつたにせよ短期間に多数回にわたり原判示のような所為をなした以上これを目して税理士業務を行つたものとし税理士法第五九条により処断するに毫も差支はない。論旨は何れも採用するを得ない。
よつて刑事訴訟法第三九六条を適用し本件控訴を棄却することとし同法第一八一条第一項を適用し当審における訴訟費用は被告人をして負担せしめる。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 平井林 裁判官 藤間忠顕 裁判官 組原政男)
弁護人和田珍頼の控訴趣意
一、税理士法第二条の「代理」「書類の作成」「相談」は何れも税法所定の申告、申請、再調査、審査の請求、異議の申立に関するものであつて単なる陳情、嘆願、交渉を指すものではない。原判決判示の(イ)(ロ)(ハ)(ヘ)(ト)等の「交渉して貰いたい旨の相談」が右同法第二条第三号に該当するものかどうかは判示に依つては毫も瞭かでない。
二、被告人は出雲衣料品企業組合、出雲百貨企業組合の従業員である関係上右組合並に其の組合員が中心となつて組織している出雲民主商工会の事務を無報酬で取扱つているものであることは記録に依つて瞭かである。同会規約第五条第二号の「研究」乃至「斡旋」として原判決(イ)乃至(ト)の事務に当つたからとて「被告人は」………「税理士業務を」営業したと云はるべきではない。
原判決には重大な事実の誤認か又は罪とならない事実について判決された違法がある。
被告人の控訴趣意
税理士法違反被告事件について昭和二十八年五月十六日付松江地方裁判所今市支部において罰金壱万円並に訴訟費用は被告人の負担とするとの判決が有りましたが左の趣意により控訴を申立てます。
昭和二十六年十一月九日武装警官数十名を動員して行はれた出雲民主商工会の弾圧は明かに政治的ないとのもとに行はれたものであります。
此の弾圧の数ケ月前から出雲市警が特高的な調査を進めて居りそれに出雲税務署簸川地方事務所財務課がその調査に如何なる援助をなしたか我々は知つて居ります。
例へば当時民主商工会事務所から押収したる事件に何ら関係のない企業組合の各営業所の営業帳簿を無断で出雲税務署に検察庁が見せて居り尚押収物件は同年十二月末に至るも完全返却せず各商店は年末の商取引上多大なる損害をあたへ十一月の所得税修正申告すら帳簿がなく提出が出きず税務署の手盛の決定を受けた商人も有り甚だ市警や検察庁の態度は不都合であつたと憤慨したと本件の証人として出廷されたる商人は云つて居られる様に明らかに市警、検察庁、税務署、地方事務所の四者がぐるに成つて出雲の商人の自主的な団結のとりで出雲民主商工会を抹消せんとつつき上げた事件で有ります。
出雲民主商工会規約第四条に「本会は会員の相互扶助の精神に基き崩壊に頻しつつ有る中小商工業の復興及び会員の経済的地位の向上を図り以て日本植民地化並に日本軍事基地化防止の一端をになうことを目的とする」と有ります中小商工業者の倒産崩壊は日々益々増へて行くそれは日本の軍事基地化植民地化にきようほんするアメリカ帝国主義者の手先吉田政府の売国政策のぎせいで有ることは衆知の事実で有ります。
一審の起訴状にも判決にも有る当事件に関係が有ると云ふ事業税所得税の問題でも異議申請で大多数が減額に成つて居る事実は証人に出られた商人や懲税吏員の証言で明白で有りますが国民のきゆうぼうをよそにぼう大な軍事予算を手盛にする不合理きわまる水増課税の実体をばくろするもので有ります。異議申請も正確なる記帳方法も知らない小商人こそ水増課税に泣寝入りせねばならない現状で有ります。証人三島来三郎氏は法廷にて「自分は不具者で字も十分書けず計算すら出来ず妻も盲人で有り数百円の事業税すら納税困難な状態で民主商工会に入会するまではだれにも相談することが出来ず泣寝入りしていた」と証言して居られます。
出雲民主商工会は昭和二十五年十月三日の出雲市内の商人有志が自主的に設立され創立総会の席上私はその事務局員に任命されたるもので有りますが、中村検事は雇傭関係は単に会員と会の従業員の関係に過ぎなかつたと云つて居りますが民主商工会は商人個々が集結して一つの共同機関を設立したもので一会員と我々事務局員は雇傭関係は直接有ります。
判決の理由の証拠の標目の第一項に「被告人の当公判廷における自分は税理士の資格はないのであるが公訴事実の点については一々記憶せぬがその様なことが有つたかも知れぬがあつたとしてもそれは私共が日常の業務としてやつておつたことで違反にならないと思う旨の供述」と有りますが此の日常業務とは民主商工会の規約に有る業務の事でその業務をいつだつした事を行つて居らないとの主旨で有ります。
税理士法違反とは税理士の資格を有せず租税に関して代理業務を行ふ者を罰するを目的として居りますが本人の公訴事実にも判決にも被告人がそれを業としてやつて居たとありますが民主商工会は会員の如何なる業務にも総会並に臨時総会で決定せる会費以外は懲収せずその会費は会の運営の諸費用に使用され我々事務局員はほとんど無報酬で勤務して居たもので有り租税に関して代理業務を業として居たものでは有りません。我々が税理士法違反に成るとすれば全国の会社の事務員や商店の番頭も税務署員と応待も計理も出来ないことに成り盲人も病人も字の書けない人も税金の申告も異議申請も出来ないことに成ります。此の様に理不じんに税理士法違反とか税務代理士法違反とかの三百的刑罰法令の適用で不当逮捕した例が各地に有りますがそれが如何に不合理であり刑罰法令の濫用であるか常識あるものにはすぐ判断出来るものでありこれを知りつつ起訴したり、有罪判決をなすところに現在の法律制度が自主性を失い逆コースをたどつて居るかをあらはして居ります。
私は右の諸点に依り一審判決は全面的に不服で有り控訴を申立てます。いかに此の事件がでつち上げででたらめきはまるもので有るか裁判長の良識有る判断を期待致します。